ずーっと見てたら・・・顔に見えてきた

 うちには使われる事なく置きっぱなしになっているモノ達が結構たくさんある。これもその中の一つ。オーディオ・マニアの憧れ「オープンリール・デッキ」だ。なんと僕はこのデッキで音楽を聴いたことが一度もない。『宝の持ち腐れ』とはまさにこの事だ。というのも実はこれ、僕が買ったものではなく、ひょんな事から我が家にやって来た物なのだ。
 結婚前の僕は、オーディオと楽器が大好きで、部屋の中にはオーディオや楽器が所狭しと並んでいた。あ、いや、正確に言うと…積み上げられていた。ある日、部屋の呼び鈴が「ぴんぽ〜ん」と鳴った。扉を開けると見知らぬ中年男性が立っている。そして「あの〜、私はこのマンションに住んでいる○○といいます。実はあなたにもらってもらいたい物があるんですが…」と話し始めた。話を聞くと、○○さんは近々引っ越す事になり、もう使わなくなったレコード・プレイヤーとオープンリール・デッキがあるから、それを差し上げたい。という事だった。当然僕は「えーっ?どうして僕に?」と質問した。○○さんは以前から僕の部屋を外から見るたびに「ここにはかなりのオーディオ好きが住んでいるに違いない」と思っていたんだそうだ。確かに窓から見える僕の部屋は普通ではなかったかもしれない。積み上げられたオーディオや楽器の配線が、まるでアフロ・ヘアーの塔のようになっていた。

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 彼は熱心に愛機の説明を続けた。プレイヤーはオーディオ・ショップに注文して作ったオリジナル物でジャズやフュージョンを聴くのに適したセッティングにしてあり、オープンリール・デッキはつい最近メーカーにオーバーホールをしてもらったばかりで最高のコンディションで…。僕はとまどいながらも心の中で「やったー!」と叫んでいた。「喜んでいただきます」と告げると即座にそれらが運び込まれてきた。「ホントにありがとうございます。大切にします。」と礼を言うと「私の方こそいい人にもらっていただけて嬉しいです」と言い残し○○さんは去って行った。
 しかし運び込まれたプレイヤーはホントに立派な物で、ボディーは石でできていて、ものすごい重量感…というより、ものすごい重量だった。そのうえ尋常じゃないほど大きい。確かにこれならさぞやいい音が出るんだろうが、置き場所がない!オープンリールの方も思ったより重い!「うーん、困ったぞー」そう思いつつ月日が流れた。プレイヤーは「欲しい」という人が現れたのであげてしまったが、オープンリールは「欲しい」という人も現れなかったし手放したくなかったので今でもうちにある。
 このスーパー・マシーンを見るたびに「○○さんは今頃どこでどうしてるのかな?」「引っ越して行ってしまう前にいろんな話がしたかったなぁ」と視線が遠くなる。

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