オバサンとタラフ

 もう何年も通っているスーパーのレジに ちょっと気になるパートのオバサンがいる。歳は僕と同じか少し下か いや もしかしたらずっと若いのかもしれない。薄めの髪を後ろで束ね 化粧っ気もない 仕事を終えて古ぼけた2Kのコーポに帰れば 鼻水を垂らした小さな子供たちがインスタントラーメンの麺をかじりながらテレビを観ている‥‥そんな光景が自動的に目に浮かんでしまうような とにかくひたすら地味で幸薄そうな背の低い女性だ。

 今日 そのスーパーに買い物に行くと 肉売り場の脇にワゴンが置かれていた。見るとそれは CD のワゴンセールだった。何の気なしに物色を始めると そのほとんどはちょっと古めのヒットパレード的な CD だったが 底の方に「Taraf De Haidouks」のアルバムが1枚だけあった。他のはどれも500円なのに これだけ「¥100」の値札が貼られている。僕は迷う事なくその CD を買い物カゴに放り込みレジに向かった。

 レジの担当はあのオバサンだった。彼女はいつものように商品のバーコードを読み取っていく。支払いを済ませてレジを立ち去ろうとした時 レジスターに目を落としたままの彼女が何やらボソボソ喋っている事に気づいた。「‥‥の CD をそんな値段で売るなんて‥‥」と言っているように聞こえた。僕の買った CD の事を言っているに違いない。一瞬ビックリして「あ‥‥あの〜 もしかしてタラフがお好きなんですか?」と声をかけようか‥‥とも思ったが 彼女の背中はその問いを全力で拒んでいるように見えた。買った商品を袋に詰めて店を出る前 どうしても気になってレジを振り返ると そこにはいつもと変わらぬ作業を黙々と続ける いつもと変わらぬ彼女の姿があった。

という夢を見た。



コメント

  1. .....やられた。
    夢かよ!ww

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  2. なんだ やられたー(笑)
    ほんとだったら面白いのに!

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  3. えーえー 夢の話です(笑)
    でもこのオバサンは実在の人物です。
    引っ越したおかげで あのスーパーにも行かなくなっちゃったけど
    元気にやってるかなぁ‥‥あの人。
    あの人が本当にタラフのファンだったら ちょっとカッコいいかも‥‥

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  4. Sydneyでコンサートへ行ったのを思い出しました。好きです。特に笛を吹いている人。

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  5. 【Maxさんへ】
    笛の人はクレイジーキャッツで言うと犬塚弘ですね。
    なんとなく見た目が似てるだけなんですけど(笑)
    それはそうと タラフのライヴを体験なさった事があるなんて羨ましいです!

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