ある夜の脱出劇

 あれはカノジョと付き合い始めて間もない20代の頃 僕らはJR名古屋駅で電車を降り 改札を出る直前 車内に忘れ物をした事に気づいて引き返した とか おそらくそんな理由だったと思うが とにかく他の乗客と別行動を取った。しかし運の悪い事にその電車は終電だった。ウロウロしているうちに構内の照明はどんどん消えていき 改札口への通路も閉じられ そして駅員の姿もいつの間にか消えていた。おいおい駅に閉じ込められちゃったんじゃない?

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 出口を求めて右往左往していると 運よく施錠されていない扉を発見。その扉は細く薄暗い通路に通じていた。見るからに関係者以外立ち入り禁止の通路だ。しかしこうなったら背に腹はかえられない。出口に続いていると信じてその通路を歩くしかない。それにしても 悪い事をしているワケでもないのに この妙に後ろめたい気分はなんだ?

 あっ 若い女性2人組がこっちに向かって歩いてくる。おそらく駅の売店かレストランで働いてる従業員だろう。まずい‥‥僕らが部外者である事を悟られないようにしなければ‥‥嫌〜な汗を滲ませつつ伏し目がちに歩く僕。しかしそこで思いもしなかった展開。すれ違いざま それまで沈黙を守っていたカノジョがニコやかに「お疲れさまです♪」と声をかけたではないか。すると彼女たちも「お疲れさまで〜す」と返してきた。自然だ。完璧だ。キミはタダモノではないな。

 結局僕らはその通路を使って駅からの脱出に成功したのだけど それにしても あの夜のあの出来事が本当に起こった事なのか それとも妙にリアルな夢だったのか 今となってはその真偽すら定かではない。が どっちにしてもその事件がその後の僕の人生に多大な影響を与えた事は 間違いのない事実 なのである。

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