Helvetica(2007年/イギリス)

 買ってから半年以上経つんじゃないだろうか イザ手に入れてしまうと「いつでも観れるから」と放っておいてホコリの中からレスキューされる運命。僕の悪いクセだ。やっとこのDVDを観た。タイトルは「Helvetica」(日本語的に言うとヘルベチカ)欧米で最も多く使われている書体の名前だ。公共の場の案内板や企業のロゴなどにも昔から頻繁に使われているが その歴史は意外と浅く ヘルベチカが完成したのは1950年代後半の事らしい。この書体がこれほどまでに広く使われているのにはワケがある。機能性と美しさの両方を備えていたからだ。

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 このDVDには多くのグラフィック・デザイナーが登場する。この書体を賞賛する人もいれば 憎き敵のごとく嫌悪している人もいる。しかし誰もが一様にこの書体の完成度の高さを認めている。よく考えてみると「ある1つの書体」にスポットを当て インタビューだけで1本の映画を作るというのは凄い事だな。しかも登場する人すべてが実に熱い! みんなね 物凄くいろんなこと考えて仕事してるんですよ。当たり前だけどプロなんですよ。ハタから見たらウットーシイほど暑苦しいプライドや信念を持って仕事してるんですよ。もーねー それを感じられただけでもこの作品は僕にとって価値があると思うわけです。あ いつの間にか文体が変わっちゃってますけどね んなこたぁアンタどーでもいーわけですよ(笑)

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 実を言うと僕はヘルベチカより「Futura」というフォントが好きなんだけど 心の底では「ヘルベチカが好き」と言える人に憧れを持ってるんです。僕が出版会社の制作部門に勤めていた頃 当時まだパソコンが導入される前で 文字は写植機で打っていたんだけど あの頃日本の書体業界で圧倒的なシェアを誇っていたのが「写研」という会社で 僕はその写研の書体の中で「ゴナ」が1番好きでね ゴナはキャッチやリード 見出しに使われる事の多いゴシック系の洗練された書体でね けど僕が当時最も尊敬していたある写植オペレーターの「私は中ゴ(中ゴシック)が1番好き」という言葉を聞いた時は物凄いショックを受けたわけですよ。ふだん誰も気にとめない極々平凡なその書体を「美しい」と表現する彼女の言葉を聞いた瞬間 僕は自分のお子ちゃまぶりにガックリ膝を落とし「顔を洗って出直してきます」な気分にさせられたわけです。


 というワケで今回はなんだかヒッチャカメッチャカなレヴューになっちゃったけど この作品はデザイナーはもちろん デザイン物を発注する側の人にもぜひ観てほしいし デザインとは一見無縁の人にも「何かのヒントになる何か」が掴めそうな作品だと思います。少なくともこれを観た次の日から「今まで気にしてなかったものが気になり始める」事は間違いないと思いますよ。

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