「劣化すること」

 先日、seikiさんのブログ「元ニューヨーク・ホームレスの眼」に「ステップ」というタイトルの日記が上がっていた。「何百、何千万の足に踏まれてすり減った階段」の事が書かれていた。

 僕は子供の頃から「すり減った分はいったいどこに消えるの?」という疑問を抱いていて、今でもその答えを知らない。ブログのコメント欄にその事を書き込むと、それに対するレスの中に「一枚のレコードを、擦り切れるまで聴く。やってみたかったけど、できなかったなー。」とあった。

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 「擦り切れるまで聴く」という表現。今でこそ滅多に聞かれなくなったが、ちょっと前まではそこここで耳にした。レコードに記録された信号は、針で引っ掻く事で抽出され、抽出された信号はアンプで増幅され、スピーカーによって音へと変換される。そしてレコードは引っ掻かれるたびにすり減る運命にある。

 お気に入りのレコードほど劣化は進み、音は悪くなって行く。考えてみれば切ない事だね。でも、僕はそれを「切ない」と感じた事がない。受け取る事のできる情報量がどんどん少なくなり、ディテイルが丸みを帯びてきても、音楽の輝きが色褪せることはない。それどころか、何百回聴いたか知れないレコードですら「あ、後ろでこんな楽器が鳴ってたんだぁ」なーんて驚きを僕に与えてくれる事がある。

 「聴く」という体験の積み重ねが、失われた分を補完する役割を果たしているのかも知れないし、劣化のおかげで、逆に「楽しみ方の幅」が広がる事だってあるだろうし、減った分だけ「何かに気づく余地」が増えている。という考え方もできそうだ。

 「劣化」って、マンザラ悪いもんじゃないかも知れないね。

コメント

  1. 劣化が始まってすでに20年。。。
    渋くなったのだろうか?
    とか、考える。
    あ~おっちゃんだわ。

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  2. 【とど吉さんへ】
    同い年のとど吉さんから「劣化」という言葉を聞くと、急に認めたくなくなりますねぇ(笑)
    生物が年齢とともに変化するのは「劣化」ではありません‥‥スバリそれは「老化」です。
    あ、なんだか気持ち悪~い着地をしてしまいました orz

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  3. レコードの頃の方が録音技術は高かったかもしれませんね。
    最近の音楽は、高い機材で聴きたいと思うものが少ない気がします。
    いや、今は機材がないので聴こうと思っても無理ですが。

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  4. 【ArigAさんへ】
    どうなんでしょうね‥‥今と昔では「録音技術」という言葉の持つ意味自体が変わっちゃったんじゃないかという気もします。
    僕は今でもレコードを聴くためのオーディオにだったらお金を出してもいいかなぁ‥‥と思いますが、CDとなると財布のヒモが硬くなる気がします。ま、どっちにしてもオーディオにかけられるお金は持ってないんですけど(笑)

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