秩序のアップデート

日本を訪れる外国人の多くが驚くことの1つに、電車を乗り降りする際の日本人の行儀の良さが挙げられる。「降りる人が全員降りたら乗り込む」日本人にとっては当たり前のこの行動は、世界では当たり前ではないらしく、駅のホームに「乗る人はここに並んでね」という表記があることも、人々がそのルール通り行動することも驚きらしい。

あのホームの表記、僕が子供の頃にはなかった気がするし、降りる人を待たずにグイグイ乗り込む人の姿もよく見かけた。僕が高校生の頃、友人を訪ねて初めて1人で東京に行った時、東京の人たちのマナーの良さに驚いたことを覚えている。東京には自然発生的に広まった暗黙のルールがあって、皆それを守ろうとしているように見えた。

その経験をきっかけに僕の都会観・田舎観はガラリと変わった。そして大都会の東京と中都会の名古屋にすら差を見出すことができた。僕の目には、田舎になればなるほど人々は「秩序のアップデート」に無関心であるように見え、それは1種の「甘え」ではないかと感じるようになった。

田舎から東京に移り住む人々は、誰もが最初は余所者で、誰にも甘えられず、バカにされてはなるまい笑われてはなるまいと、水面下で足をバタつかせながら都会の流儀を身につけようとする。ただ、東京を構成しているのはそんな元田舎者たちがほとんどで、彼らこそが「東京」という得体の知れない巨大な生きものの正体であり、彼らの「バカにされまい、笑われまい」という意識の先にモラルやルールの進化があるような気がしてならない。

話はガラッと変わって、先日の東京旅行からの帰路、名古屋の地下鉄のホームで電車を待っていた時に撮った写真がこれ ▼

僕は電車に乗り込む人が並ぶべき場所に立っていたつもりだった。しかし、そこに並んでいたのは僕1人。多くの人は電車から降りた人が通る道に列を作っていた。最初は自分が場所を間違えたのかと心配になったが、床に描かれた矢印の向きからしても間違っているのは明らかに彼らの方だった。

ただ、こんなことが起きた理由は簡単に理解できた。ホームの床に描かれた誘導デザインが原因だ。電車を待つ人々が最初に知りたいのは「自分はどこで待つべきか」なのに、待つべき場所より「降りた人の通り道」の方が目立ってしまっているのだ。よりスムースな誘導を実現するために様々なアプローチを試してみることは大切だが、公共交通機関での人々の誘導に関しては、なるべく早く全国共通(あるいは世界共通)のデザイン・ルールを導入すべきだと思う。アップデートを必要としている場所はまだまだ無数に存在する。

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