朱日記

 泉鏡花と中川学 この組み合わせによる書籍は「龍潭譚」「化鳥」に続いて3作目。で 今回は「朱日記」という作品。何ヶ月か前に中川さんが「次は朱と墨の2色刷りで行きます」と Facebook に書いてらして「おっ! チャレンジャーだな 攻めてるな」と感じ 出版を楽しみにしてたんだけど 宣言通り2色刷りの本が届いた。

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 2色刷りとは言っても 紙は白なので実際には3色。つまりこの本は黒と赤と白 そしてその中間色だけで作られているわけね。そもそもタイトルが「朱日記」だから「朱色をどう表現するか」が鍵だった事は容易に想像できるが「朱色」を通常の4色刷りで表現しようとした場合 マゼンタとイエロー そこに少し墨をたした「掛け合わせ」で作る事になるんだけど 「朱」が大きな意味を持つ作品である以上 掛け合わせではどうしても弱い。となれば「朱」には特色インクを使いたい。そしてその「朱」をより印象的にするため墨と朱の2色刷りにする。ここまでは至って自然な流れ。ただ これは己の体に手かせ足かせを着けるのに近い。今まで使ってきたアノ手やコノ手を封じる覚悟と たった2色のインクで泉鏡花の世界を成立させるだけの力量が必要となる。僕が最初に「チャレンジャーだな 攻めてるな」と思ったのはそういう理由からだった。

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 しかしよく考えてみれば 中川さんは黒の濃淡だけで小説の挿絵を描く事が多い。もしかしたら今回の2色刷りは 彼にとってはそれほど特別な事じゃなかったのかもしれないね。2色である事が手かせにも足かせにもなっていない。というか逆に何かが開放されているように感じられる。実は最初に「2色刷り」と聞いたとき 僕は勝手に版画的なベタ塗りの世界を想像していたのだけど この作品には随所にグラデーションが使われていた。もちろん「版画」と言っても 浮世絵などには美しいグラデーションが多く見受けられるが もし「朱日記」がグラデーション無しで描かれていたら‥‥と夢想するのも面白い。

 何年か前に中川さんと話をした時「自分の作風を壊したい」というような事をおっしゃってて その言葉が妙に心に引っ掛かっていたんだけど「朱日記」を観て「あ ちょっと壊しにかかってる?」と感じた。いや あくまでもこれは「なんとなく」だし 厳密に言えば たぶん過去の2作にも何らかの「壊し」はあったと思うんだけど 今回はもう少しわかりやすく破壊の跡が見えた‥‥ような気がした。

 あ そうそう 実は「朱日記」のプロモーション動画も前回の「化鳥」の時と同じく 青木香嬢が担当していて この動画がまたすこぶるいい出来なので貼っときます。



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