「絵本 化鳥/制作夜話」ツアー(4)

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 先週は「編集 vs. 制作」という切り口で面白い話をたくさん伺いましたが 今回はイラストレイター/中川 学 デザイナー/泉屋宏樹 書家/上田 普 という3人の錚々たるクリエイター達がズラッと顔を揃え 制作サイドの裏話をたっぷり聞く事ができました。

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 僕はもともと「書」の世界に興味があったんですが 書家と呼ばれる人とは縁がなく 題字をお書きになった上田さんからどんなお話が聞けるのか とても楽しみにしていました。

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アニメイションを観るkobouzuさんこと中川さん

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今回は熱心にメモを録る人の姿を多く見かけました

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そして
決定に至るまでの題字の変遷が見られたのは
今回の大きな収穫でした

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 「題字は既存のフォントがいいんじゃない?」という編集側の意見を デザイナーの泉屋さんは良しとしませんでした。そこでカナダ留学時代からの友人でもあり「龍潭譚」でもチームを組んだ上田さんに「書」を依頼。最初に上がって来た字を見た中川さんは「これでいいんじゃないですか」と意外と簡単にOKを出したものの 泉屋さんは納得しません。そしてそこから果てしなく「書いてはダメ出し」が繰り返され「もっとバシャッとした感じで」という謎のキーワードに 上田さんも何をどーしたらいいのかわからなくなり‥‥という それぞれの思いがぶつかったりすれ違ったりする様が実に面白く(笑) で 紆余曲折を経て辿り着いたのがこれだったわけですね。

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 「鏡花作品に小村雪岱(こむらせったい)という装丁家・意匠家が大きな役割を果たしたように 中川 学には泉屋宏樹がいる。」昨年夏に神戸のギャラリーで初めて泉屋さんに会った時もたしかそんなお話をされていました。たしかにアノ2人とコノ2人はすんなり重なり合います。でも僕は同時に別の見方もしています。「ここにいる3人すべてが小村雪岱である」という見方です。

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書家の上田さん(左)とデザイナーの泉屋さん(右)

 絵本には題字の脇に小さく印刷されていますが 落款(朱印)も上田さんの手によるもので 実物は結構大きなものでした。なるほど この落款の篆刻(てんこく)も幾度となく試作が繰り返されたのですね。前週の手描きラフスケッチといい 今回のボツ案披露といい こういう部分にわたくし俄然喰い付きます(笑)あ そうそう 今回はボツになったkobouzuさんのイラストも公開されてました。水木しげるっぽい という理由でボツになったというあの妖怪たちの絵 あれも大好物です(笑)

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来場者にプレゼントされた落款カード

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メンバーが着ていたオリジナル化鳥Tシャツ(非売品)

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イヴェント後 サイン責めにあうkobouzuさん

 いやぁ今回もホントに濃い内容でした。何よりも 集まったお客さんの眼差しの熱さが印象的でした。そして僕の心に最も強く残ったのは イヴェント後の何気ない会話の中に期せずして滲み出た それぞれのクリエイターたちが胸の奥に抱えていた「信念と不安を行ったり来たり」のドラマでした。確固とした世界を確立済み とばかり思っていたあのkobouzuさんが「これでいいんかなぁ?」などと不安を抱えながら 探り探り絵を描いている姿など 僕はまったく想像していませんでした。それはおそらく端から見れば 頂点近くのコンマ何ミリの葛藤なんだと思いますが 似たような葛藤を日々経験している身としては ちょっと安心すると同時に おいおい この不安と葛藤は天井知らずなのか? と 少し戦慄を覚えた事も正直に記しておきたいと思います。

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