早春スケッチブック(1983年/日本)

 僕は山田太一という脚本家の作品が大好きだ。最初に観たのがNHKで放送された「男たちの旅路」で、次がTBSの「ふぞろいの林檎たち」そしてその次がフジテレビで放送された「早春スケッチブック」‥‥という順だったと思う。どの作品も、思春期から抜けきってない僕のテンプルを砕かんばかりの強烈なパンチ力を持っていた。僕がこんな人間になってしまったキッカケを作った主犯格の1人が山田太一であった事はほぼ間違いないだろう。中でも「早春スケッチブック」の破壊力は飛び抜けていた。

sketch.jpg

 彼の作品は当時僕の中にやっと芽生えかけていた「普通」とか「常識」とか「正義」とか「安定」みたいなもんを、1個ずつ巧みにひっくり返していった。しかも彼はドラマの主人公にそれをさせない。主人公は僕と同じように足払いを喰らってぶっ倒れ、混乱し、不安になり、怒りを覚え、そして起き上がりざまに新しい視点を手に入れ、元いた場所へと戻って行く。

 とてつもなく嫌な奴、悪事を働く者、社会からはみ出し、こぼれ落ち、孤独な弱者となった人たちの言葉が、ありきたりな人生を歩む普通の若者たちの目を開かせる。ついさっきまで「理不尽な理屈」としか思えなかった考え方の中に、真実を見出してしまう。その展開が見事としか言いようがなく、それこそが山田太一の最大の魅力なんだと僕は今でも思い込んでいる。少なくともあの頃の彼の作品にはそれがあった。

 その「早春スケッチブック」を27年ぶりに観た。まだ1枚目のDVDしか観てないけど、やっぱりスゲェ。グイグイ引き込まれる。やはり僕はこの作品にかなり影響を受けている。山崎 努の、まるで「抜き身の刀」のようにギラギラした危険で凶暴な言葉、ラジカル過ぎる考え方、そして時々見せる孤独と恐怖。「お久しぶりです。僕はあなたのせいでこんな大人になっちゃったんですよ(笑)いやぁ、それにしてもまたお会いできて嬉しいです」そんな気分だ。あー、早く続きが観たい。



コメント