父のハーモニカ

 何日か前、父から電話があり、突然何を思ったか「今度実家に帰ってくるまでにハーモニカを買ってきてほしい」と頼まれた。実家の近所にあった唯一の楽器屋はすでに店をたたみ、どこで買えばいいのかわからなかったのだろう。僕もブルースハープなら何本か持ってるが、いわゆる普通のハーモニカについては詳しくなかったのでネットで調べてみた。

 ブルースハープじゃなければクロマチックかな? と思いつつ調べ始めると、いやぁ、一口にハーモニカと言っても実に様々な種類があるものだ。クロマチックなら、例えばスティーヴィー・ワンダーやトゥーツ・シールマンスなんかの姿がパッと思い浮かぶが、半音の調節をレバーでやらなきゃならなかったりして素人にはちょっと難しそうだ。と、なると、ふむふむ複音ハーモニカというやつが最も一般的なんだな。そういえば僕らが小学生のころ学校で使ってたのもこのタイプだった気がする。吹き口は21個が最もオーソドックスらしい。

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 メーカーもいくつかあるが、僕はブルースハープで一番好きだったのがトンボ製のものだったので、トンボの複音ハーモニカをネット通販で買う事にした。キーもいろいろあるけど、きっと父は童謡とか懐メロとかを吹くつもりだろうから、Cが無難かな? とCにした。

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 で、昨日そのハーモニカを持って実家に行ったのだが、それを手にした父は早速ピープーパーポーと数音出し、すぐにハーモニカを磨き始めた。真新しいピカピカの楽器に残った唇の痕が気になるのだろう。が、しばらくするとまた吹き始めた。すると今度はちゃんとメロディーを吹いてる。馴染みのある童謡だ。時々音が外れるが、すぐに正しい音を探り出し、何曲か吹いた。「なんで吹けるの?」「これぐらい吹けるわ」「若いころ吹いとったの?」「ハーモニカなんか吹くの初めてやわ」恐れ入りました。

 そう言えば、僕が中学生の頃、親にせがんで買ってもらったフォークギターを「ちょっと借りるぞ」と手にした父はすぐに演歌を弾き出した。どうやら若い頃、見様見真似で弾いた経験はあったようだが、ただコードを押さえてジャンジャカ弾くのすらおぼつかない僕と違って、ドンカラカッカどからかちゃんちゃんドカリコズットンシャン♪ と、父はまるで演歌の流しの人が弾くような見事なアルペジオを披露し「意外と覚えとるもんやな」と部屋を出て行った。

 優れた音感を持ち、楽器の操作も瞬時に覚えてしまう父。まさに天才肌だ。しかし、決してそれに没頭する事はなく、活かす事もせず生きてきた人。まさに「器用貧乏を絵に描いたような人」ではあるが、僕は「スゲェ」と思う。さて、はたしてこのハーモニカは彼の一生の友となるのだろうか‥‥

コメント

  1. 子どもの頃は、ハーモニカのあの独特の臭さと金属部分が前歯に当たった時の不快感がどうしても苦手で、あまり好きじゃなかったんですけど、ハーモニカを自在に操るフォーク歌手と様々なジャンルの外人ミュージシャンのおかげで好きになり、僕もトンボのブルースハープを2つ持つようになりました。
    が、ハモニカを加えてベース弾くのはカッコ悪かろうということで、あくまで持ってるっていう程度のことしか出来ません(笑)
    けど、そのお父さんの音の感性がひげフレディーさんにも伝わっているんですよ、きっとね。
    > 決してそれに没頭する事はなく、活かす事もせず
    粋ですねぇ(笑)

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  2. 【thin-pさんへ】
    たしかにハーモニカくわえたベーシストって見た事ないですね。そういえば想像した事もないですし、ベースとブルースハープ両方に馴染みのある僕も、やろうと思った事は1度もありません(笑)
    しかしあれなんです。父の音感の良さと、楽器センスみたいなもんは、悲しいかな僕には遺伝しなかったみたいなんです。ただ「器用貧乏」な所だけは多少引き継いでる気がします(苦笑)

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