無題

 僕には別居中の妻がいる。とても美しい人だ。非凡な才能にも恵まれ、一見華やかで活発な人に見られがちだが、心にトラウマを抱え、実はとても不器用で臆病な人だ。僕はそんな彼女の姿に時々涙が出そうになる。その彼女が仕事の関係でこの街に来ているというので、「じゃあ」という事で会う約束をした。

 久しぶりに会う妻は、白いシャツに黒のパンツ姿。ポートフォリオが入っていると思われる大きな鞄を肩に掛け、かかとのある靴をカツカツ鳴らしながら颯爽と大股で現れた。こんな彼女を見るのは初めてかも知れない。石造りの建物が並ぶオフィス街を歩きながら、互いの近況などを報告。「実は昨日ギトさんに会ったの」どうやら仕事のパートナーを紹介してもらえる事になったらしい。「今日もこの後ギトさんちにご招待されてるんだけど、よかったらキミも一緒にどう?」(彼女は僕を“キミ”と呼ぶ)「あ、うん、いいよ」途中、手土産の菓子などを買い、ギトさんちに向かう。

 その家は、鈍く黒光る太い柱が印象的な古く立派な日本家屋だった。天井は高く、二階まで吹き抜けになっている。いわゆる「鰻の寝床」のような間取りで、法事か何かだろうか、親戚らしき人たちがたくさん集まっていた。すべての襖は取り外され、長細い宴会場のような佇まいだ。いつもの調子で出迎えてくれたギトさん。さっそくパートナー候補らしき人が呼ばれ、和やかな雰囲気のなか名刺の交換などが始まった。小柄で朗らかな女性だった。それを横目に僕は案内されるまま一番奥の席へ。

 するとそこには昔の会社の同僚二人が。昔話から冴えない近況話まで一通り盛り上がったところで、はたと気がついた。隣りの席に座ってるのは僕の親戚のおばちゃんじゃないか。「あ、どうもご無沙汰しております」と声をかけると、おばちゃん既にかなりお酒が入っているらしく、憮然とした表情で無言のまま中空を睨みつけている。「では、皆さん揃ったようなので、この辺で乾杯といきましょう」ホスト役のギトさんが声を上げる。グラスを手に立ち上がる一同。しかし、おばちゃんだけ立ち上がらない。それどころか急に仰向けに寝っ転がり、足をバタバタさせながら僕を指さし「おまえの人生それでいいのかーっ!」と怒鳴り始めた。続いて何やら叫んでいたが「カンパーイ!」の声にかき消されて聞き取る事はできなかった。

 という夢を見た。

コメント

  1. 小説バリの夢だな
    ギトしゃちょうが、おエライさんみたいなところが、好き。
    第二章を楽しみにしております。
    つーか、文章うまくね?表現がさ

    返信削除
  2. うまい!
    続きが楽しみです(笑)

    返信削除
  3. 【kayoさんへ】
    この夢、ギトさんだけが実在の人物で、その他の登場人物は(僕自身も含め)すべてが「誰でもない」というキャスティングでした(笑)
    第二章‥‥ですか?
    うーん、僕はほとんど夢を見ない上に、こんなにディテイルのハッキリしたストーリーものは生まれて初めてだったので、次はいつ見られるかわかりませんし‥‥見られたとしてもきっとこの夢の続きは無理かと‥‥(苦笑)
    【ちるにーさんへ】
    あらま、ちるにーさんまでもが続きをご所望ですか?(笑)
    うーん、これは責任重大で不眠症になってしまいそうです‥‥(うそですけど)(笑)

    返信削除

コメントを投稿