黒い十人の女

 先日亡くなった市川 崑監督の1961年の作品「黒い十人の女」を観た。何と言えばいいのだろう‥‥思いつくままキーワードを挙げるならば、クール、スタイリッシュ、シュール、コミカル‥‥あたりか。

 市川 崑ならではの映像美に、芥川也寸志の音楽の素敵さと、監督の奥さんでもある和田夏十のシナリオの素晴らしさが合わさり、この表現が妥当かどうかは怪しいが、フランスのヌーヴェルヴァーグの影響をモロに受けているかのような「淡々とした不思議さ」に溢れる映画だった。敗戦後16年しか経っていない当時の日本に、ここまでぶっ飛んだ作品を作るだけの力があったとは驚きだ。若い才能がほとばしっている。特にシナリオが凄い。

 山本富士子、岸 恵子、岸田今日子、中村玉緒‥‥当たり前だがみんな若い。モノクロの映像美のおかげもあってだろうが、最近の役者さんには感じられない「野獣的な美しさ」が匂ってくる。

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 10人の女が1人の男の殺人を企てる。男はちょっと抜けてて飄々としてるが優しいからモテる。とにかくモテる。しかしその男は「自分がモテている」と言う自覚がまるでない。だから、次々に新しい恋人ができるし、彼女たちを恋人とも思っていない。彼の奥さんは言う。「誰にでも優しい男は、誰にも優しくない」と‥‥うん。わかるわかる。「優しさ」って実に多面的な物だし、おそらくきっと「勘違い」と「思い込み」の産物なんじゃなかろうかと、僕は思う。

 唐突に「完」の文字が映し出された時には「えーっ?」と思ったが、それもまた潔(いさぎよ)さだし、美学なのかも知れない。僕はこの作品を「シニカルなコメディー」として楽しませていただいた。




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