師匠は焼きいも屋さん

 買い物の帰り道、前方から焼きいも屋の軽トラが近づいてきた。「い~しや~~~きいも~♪」それにしてもやけにカン高い売り声だなぁ。両者の距離はどんどん縮まる。ん? こっ、これはっ! 師匠! 師匠じゃありませんかっ! そう。あの有名ポッドキャスト「続・師匠的」でおなじみの、あの師匠の声にソックリ。っていうか師匠そのものなのであります。

 しまった! ICレコーダー持ってない。録りたいのに‥‥あっ、そうだ。携帯電話で動画を撮ればいいんだ。ポケットから携帯を取り出し、録画を始めようとした途端、ピタっと音が止まった。見ると運転席から降りたお爺ちゃんが荷台へ向かおうとしている。荷台には芋の入った釜が乗っている。お爺ちゃんが釜のフタを開ける。うわぁ~、美味しそうな匂い♪ その時点で僕はトラックの真横。うううう‥‥お爺ちゃん、早くトラック走らせてよ。音を録りたいんだからさぁ。

 よっぽどその場に立ち止まって、再び売り声が流れ出すのを待とうかとも思ったが、周りには人っこ1人いない。まさにお爺ちゃんと僕、2人だけの世界だ。携帯のレンズをお爺ちゃんに向けたまま、焼きいもを買うでもなく、何をするでもなくトラックの発車を待つ。というのはあまりに不自然じゃないか。涙を飲んで歩き続ける僕。悔し紛れに自分の足を撮ってみたりする。僕が次の角を曲がるまで、師匠の声が聞こえてくる事はなかった。



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