すでに四十郎ですが

 つけっぱなしのテレビから「春一番が吹きました」というアナウンサーの声が流れてきた。どこで吹いたのかも、例年より早いのか遅いのかも聞き逃したが、とにかく今日どこかで吹いたらしい。春かぁ‥‥春になるんだな。季節の変わり目はどうもいけない。冬なら冬! 春なら春! とハッキリしてる時はいいけど、曖昧な時期ってな~んか落ち着かない。

middle_1141649465.jpg

 こんな時、決まってコレを観たくなる。黒澤明の「椿三十郎」。これぞまさに「痛快娯楽時代劇」。たいていの映画は必ず何ヶ所か「おいおい」とツッコミを入れたくなる所がある物だけど、この時期の黒澤作品は、脚本が非常によく練り上げられていて穴が無い。つまり、気を散らす事なく最後まで一気に楽しめるのだ。

 三船敏郎演ずる主人公の椿三十郎(仮名)は頭は切れるし、腕もあるが“体制に組みする器用さ”に欠けた「武骨でチャーミング」な男。そして加山雄三、田中邦衛、小林桂樹、平田昭彦ら演じる若い侍たちはあまりに「未熟でまじめ」過ぎる所がかえって笑いを誘う。「三船の永遠のライバル」仲代達矢は三十郎同様、頭もいいし腕も立つが野心家であるがゆえにダーク・サイドに片足ツッコミながらギリギリの生き方をしている。

 現代に置き換えてみると‥‥三船は有能でありながら、どこにも所属する事ができずスピン・アウトしてしまったホームレス。若い侍たちは上司の汚職を発見し右往左往する新人公務員。仲代は法の網の目をすり抜けながらひたすらサクセスを目指すベンチャー戦士。ってとこかな?

 今日は久しぶりに「椿三十郎」を観よう。

コメント