さよならムーグ博士

 あ~なんだか寂しい。とか言いつつホントは「まだ存命だったのね」とビックリしたりなんかシテタリナンカするんだけど(by 広川太一郎)。シンセサイザーの名器「ミニムーグ」の生みの親、ムーグ博士が亡くなった。そりゃ~随分と憧れたもんですよミニムーグには。いまや電子楽器の世界も「行くとこまで行った感」が強くて、もう「出せない音はないんじゃないか」とさえ思えるほどなんだけど、最新の機器を使ってもミニムーグの図太い音は決して出せない。だから発売から30年以上も経つのにいまだにみんな大切に使ってるし、コンディションの良い物は中古市場で高値で取引もされている。

middle_1124873456.jpg

 僕のレコード棚にはミニムーグやポリムーグといった名器達から出た音が至る所に散りばめられている。特に印象的なのはアース・ウインド&ファイヤーの「灼熱の狂宴」というライヴ・アルバムでラリー・ダンが披露したミニムーグによるソロだ。低音から目一杯ポルタメントをかけて一気に超高音へと上昇して行く部分なんかはスピーカーが壊れちゃうんじゃないかと思うほどの緊張感だ(聴いてて毎回ヒヤヒヤする)。これはほんの一例に過ぎないんだけど、ホントにいろんなミュージシャンから愛された。いや今も愛され続けているキーボード。それがムーグなのだ。じゃあムーグは完璧な楽器なのかと言うと全然そんな事はない。ヤンチャで駄々っ子で不完全で不安定で繊細で扱いづらい楽器である。スイッチを入れてしばらく待ち、楽器が温まらないと音程が安定しないとか、高い方のピッチが音痴だとか‥‥ま、楽器としては致命的なそんな欠点を補って余りあるほどの魅力があるのだから仕方ない。理屈じゃないんだよ。理屈じゃ。

 ムーグが世に知られ始めた1970年前後と言えば、後に性転換してウェンディー・カーロスと言う女性になったミュージシャン「ウォルター・カーロス」がムーグを駆使して「スイッチド・オン・バッハ」という革新的なアルバムを出し、キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」ではムーグによるとても刺激的なサウンド・トラックを担当し、日本では富田勲が初めてムーグをアメリカから取り寄せた時「兵器ではないか」と税関で大騒ぎになり、ビートルズやビーチボーイズが電子楽器を積極的に取り入れていた頃だ。最初はマニアックで実験的な使われ方をする事の多かったムーグはその後、ロックやファンク、ポップ・ミュージックなどにも使われるようになり、逆に「シンセサイザーは使われていません」とわざわざクレジットするミュージシャン(クイーンだったかな?)が登場するほど音楽界に浸透して行った。

 もしムーグに興味をお持ちの方がいらしたら、僕が最近ポッドキャスティングで聞いている「Progressive Music Cast」というサイトをご覧いただきたい。追悼番組としてムーグ・シンセサイザーをいじり倒してる番組が2本アップされてます。(ただし内容はかなりマニアックなのでご覚悟あれっ!)

middle_1124873499.jpg

 あ、そうそう。今回の悲しいニュースを知って、ムーグ博士についてちょっと調べてみたらナント!「moog」とタイトルされた博士のドキュメンタリー映画が去年作られていたではないですかっ! 知らなかったよ。ウカツだった。これは見てみなければいけませ~ん。出演者を見るとこれまたビックリのメンツ。ムーグ博士自身はもとより、キース・エマーソン、リック・ウェイクマンなどのプログレの大御所から、Pファンク軍団の名キーボーディストであるバーニー・ウォレルなどそうそうたる顔ぶれが名を連ねている。この映画についてはこちらのページにも興味深い記事が載っている。どうやらムーグさんは日本好きだったらしい。伊丹十三の「たんぽぽ」を観て「ラーメンはアートだ」と言い出し、相撲と仏像と日本車とヤマハ渋谷店(笑)が好きだったらしい。映画「moog」のDVDはコチラでも売ってます。

middle_1124873554.jpg

 そして「エッ!こんな物まで?」ムーグ博士大人気じゃないですかぁ♪ ¥3,360かぁ‥‥ちょっと欲しい気もする(笑)興味のある方はこのサイトをご覧ください。

 最後に「moog」はどうやら「モーグ」と発音するのが正しいようですが、僕は10代の頃からずっとこう呼んでたので敢えて「ムーグ」と書かせていただきました。僕の小さなコダワリだと解釈してください。

コメント