第2回 フレディー・ビデオ・マラソン(2)

 今日はビデオ・マラソンの後半をお届けします。しかしまぁ、残った2本は超ヘヴィー級だったなぁ‥‥。

 さて今日お送りするのは、僕が最も尊敬する映画監督「スタンリー・キューブリック」の作品2本だ。キューブリックといえば「2001年宇宙の旅」や「時計仕掛けのオレンジ」「博士の異常な愛情」あたりの人気が高く、僕も彼の作品はほとんど観てきたんだけど、どうしても触手が動かなかった作品が3つだけあった。そのうち2つが今回登場する「アイズ・ワイド・シャット」と「バリー・リンドン」だ。(ちなみにもう1つは「スパルタカス」)

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 では「アイズ ワイド シャット」から。これはキューブリックの遺作となった作品で、主演はトム・クルーズと(撮影当時は彼の妻だった)ニコール・キッドマン。映画の公開を待たずしてキューブリックが亡くなってしまい、そのニュースがあまりに衝撃的だったため、ハッキリ言って僕はこの作品を観るのが怖かった。この作品は「R指定」となっている。つまりエロい場面があるから未成年は見ちゃダメよ♪ ってわけだが、見終わってみての率直な感想は「良くも悪くもキューブリックだなあ」だった。まずは良い点。他の追従を許さない圧倒的な映像美。計算され尽くした構図。憎らしいほどの音楽センス。悪い点は‥‥最後に書く事にしよう。

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 次は18世紀イギリスの貴族を中心に描いた「バリー リンドン」。1人の身分の低い男が戦争や裏社会をシタタカに生き抜き、上流階級へと登りつめていく物語。主演はライアン・オニール。何と言ってもこの映画の最大の話題は、ロウソクの光だけで撮影された夜の室内シーンだろう。これはウワサにたがわぬ美しさ見事さだった。こちらも「アイズ・ワイド・シャット」と同じく映像美と音楽の使い方には文句のつけようがない。パーフェクトだ。そしてやはり良くも悪くもキューブリックだった。

 では「悪い点」について僕の勝手な意見を書かせていただく事にしよう。映画評論家たちはよくキューブリックを「人間を描くのがヘタだ」と言う。そして僕もその意見には異論を持っていなかった。だけど今回2作品を立て続けに観てみて僕なりに感じた事がある。キューブリックは「人間を描くのがヘタ」なのではなく、そんなもの最初から「表現しようとしていない」のではないか。という事だった。観る者は主人公と自分を重ね合わせて、共に泣いたり笑ったり悩んだりドキドキしたり、世の中の映画のほとんどはそういう作りになっている。が、彼の映画の場合、観る者にはスクリーンの外側のイスしか用意されていないのだ。悪い点というのはそこだ。けれど同時に、その事がキューブリックをキューブリックたらしめている最大の魅力なのかも知れない。彼の作品に「シャイニング」というモダン・ホラーの傑作がある。僕の大好きな作品だ。原作はスティーブン・キング。しかし原作者のキングはキューブリックの描いた「シャイニング」に失望し、原作を忠実に映像化した作品を作った。観てみたらとてつもなくオモシロかった。主人公が抱える切なさや悲しさが涙を誘う。当たり前の事だがとてもキングらしい作品だった。そこで僕は考えた。キューブリックはなぜ観る者の共感を得られる人間味溢れる部分をバッサバッサとカットして行ったんだろう? 描けなかったのではなく、描かなかったとしか思えない。

 3時間を越える作品を立て続けに観て、僕の中ではまだ充分に考えがまとまっていないんだけど、やっぱりキューブリックは凄いよ。金と時間をふんだんにかけ、決して妥協しない職人であり芸術家。彼のような監督は2度と出てこないんだろうな‥‥。DVDを返却する前にもう一度観てみよう。

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